執行停止制度

執行停止制度について

 

今回は、執行停止制度の概要、要件、効果を見ていくことにします。内閣総理大臣の異議の制度は、学ぶ実益がありませんので無視します。

 

     執行不停止原則

 

執行停止に関する条文は、25以下にあるのですが、その最初の251は、「処分の取消しの訴えの提起は、処分の効力、処分の執行又は手続の続行を妨げない」として、執行不停止原則を採用しています。

平たく言うと、取消訴訟を提起するだけじゃ、その裁判中は行政活動止めてあげない、もっと要件が厳しい執行停止が認められたら行政活動止めてあげるっていうシステムになっているということです。

 

かつては、行政行為の公定力から必然的に執行不停止原則が導かれると説明されることもありましたが、公定力という用語に、取消訴訟の排他的管轄の結果生じた通用力という以上の意味を持たせない今日では、執行不停止原則をとるか否かは立法裁量の問題と考えられています。そして、我が日本国では、行政活動の停滞を防ぎ、行政目的を迅速・円滑に実現することを重視して、執行不停止原則を採用したのです。

 

もっとも、個人の権利救済の観点も当然必要です。特に、民事訴訟とは異なり、公権力の行使に当たる行為については、民事保全法上の仮処分ができませんので、仮の救済がまったくもって認められないことにもなりかねず、そうすると裁判を受ける権利という憲法上の権利ともバッティングしかねません。そこで、例外として執行停止が認められる場合を252以下の要件が定めています。

 

     執行停止の概要

 

252項は、執行停止の種類として、㈠「処分の効力」の停止、㈡「処分の執行」の停止、㈢「手続の続行」の停止の三種類を挙げています。

 

     「処分の効力」の停止は、処分の効力を暫定的に停止し、将来に向かって処分がなかった状態を復元するものです。営業許可撤回処分の停止がこの例です。

     「処分の執行」の停止は、係争の処分によって課された義務が強制執行されることの停止です。建築物の除却命令の取消訴訟継続中に、処分の執行として代執行が行われる場合がこの例です。

     「手続の続行」の停止は、行政機関が係争の処分を前提として後続の処分等を行うことの停止です。土地収用法上の事業認定の取消訴訟の係属中に、事業認定を前提にして収用裁決が行われようとしている場合や、行政代執行法上の戒告・通知の取消訴訟の係属中に事実行為として代執行が行われるような場合がこの例です。

 

このうち、㈠「処分の効力」の停止については、㈡㈢ができないときにのみすることができるものと定められています(252項但書)。これは、処分の効力の停止は、最も強力な措置であり、公益に与える影響も大きいので、補充的にのみ使用可能であるということです。

 

執行停止の問題だからといって、要件論に飛びつくのではなく、どの類型にあたるのかの指摘から始めることが重要であると思います。

 

     執行停止の要件

 

執行停止の要件は、252が積極要件を、254が消極要件を定めています。このうち積極要件は、手続的要件と実体的要件に分類できます。大きく分類すればこのような構造になっています。

 

(1)   積極要件

 

Ⅰ 手続的要件

 

「処分の取消しの訴えの提起があった場合」

 

これは、執行停止の申立ては、本案訴訟が適法に係属していなければ不適法となるということです。本案訴訟が提起されていても、それが訴訟要件を欠いて不適法であれば、執行停止の申立てもできないものと解されています。

 

Ⅱ 実体的要件

 

「重大な損害を避けるため緊急の必要があるとき」

 

この要件該当性を判断するにあたって、考慮すべき要素が、253に規定されている、「損害の回復の困難の程度」「損害の性質及び程度」「処分の内容及び性質」です。

「損害の性質及び程度」とは、具体的には、非財産的損害であれば、「性質」上、損害の重大性を認めやすくなり、損害が人的物的に大きなものであれば、「程度」が高く、重大性肯定につながるのだと思われます。

「処分の内容及び性質」とは、損害の観点は既に「損害の性質及び程度」において考慮済みですので度外視しますので、結局執行停止がなされた場合の公益上の支障行政目的の阻害のおそれを考慮するものであるようです。

 

また、「損害の性質及び程度」は、「損害の回復の困難の程度」の一判断要素ですので、結局「損害」の回復困難性と、公益の観点から見た「処分」を天秤にかけてどっちに傾くか判断するというのが、この規定の趣旨のようです。

 

(2)   消極要件

 

Ⅰ 「公共の福祉に重大な影響を及ぼすおそれがあるとき」

 

公益の観点は、すでに「重大な損害」といえるか判断する際に、「処分の内容及び性質」について考慮されているので、この要件は、実質上あまり意味のない規定のようです。

 

Ⅱ 「本案について理由がないとみえるとき」

 

本案審理をしてもまず勝ち目がないような場合には、執行停止をすることを禁止するものです。

 

     執行停止の効果

 

執行停止の効果は、遡及効を認めるべきという有力説は存在しますが、処分時には遡らず、将来に向かってのみ生ずるとするのが通説・判例(最判昭和29622)です。

 

cf. 応用論点として、「先行行為が執行停止された場合の後行行為の取扱い」という問題が存在します。執行停止の効果を将来効と捉える通説の立場からは、

「先行行為の効力が停止された時点から、すでになされた後行行為効力は停止するし、未だなされていない後行行為については当然違法となり、差止めが可能である」と考えるか、

「先行行為の効力が停止したとしても、すでになされた後行行為の効力まで当然に停止したと考えることはできず未だなされていない後行行為差し止めることができるにすぎない」と考えるかのいずれかであるようです。詳しくは、野呂先生の行政判例百選Ⅱp.415の解説をご一読ください。)