財産権

財産権について

 

財産権は、権利の内容からして争いがあるため、この権利をどのように使ったらいいのかイマイチはっきりしないです。そこで、今回は財産権にスポットを当てて、道具として使える形を探ろうと思います。

 

①     財産権とは

 

財産権の実体について詳言すると長くなるので、木村先生の分類をある程度前提にさせていただきます。

木村先生は、『憲法の急所』185頁において、29条1項の「財産権」と29条2項の「財産権」は内容が異なるため、必然的に各項で保障される権利 も異なり、29条1項自由権としての既得権(=その保有について強い期待のある既存の財産法上の権利)を保障しており、29条2項請求権としての国に対し「公共の福祉」に適合する財産法の構築を請求する権利を保障しているとされています。

この分類の素晴らしいなと思う点は、この分類からは森林法判決の位置づけが明確になる点です。

 

②     森林法判決について

 

森林法判決(最判昭和62・4・22)において、判例は、29条1項は、「私有財産制度を保障」するだけではなく、「社会経済的活動の基礎をなす国民の個々の財産権につきこれを基本的人権として保障する」ためのものだと明言しました。そして、判例はこの事案を権利侵害が問題となっている事案ととらえました。

しかしながら、森林法判決の事案は、原告が問題の森林を取得した時点で、すでに共有林分割制限規定があり、原告の分割請求権は既得権とはいえませんでした。そこで、じゃあ既得権以外のどのような権利が侵害されたのか、という問題が生じてしまったのです。

その侵害されたと構成するべき権利を、既得権以外の権利として憲法から直接導き出す必要が生じたのです。

しかし、財産権の中核たる所有権ですら民法で具体的な法律として制定されて初めて憲法上の保障をうけるのに、今回の事案で「憲法に内在する財産権」 を判例は認めたのだという構成(例えば、単独所有形態は、近代市民社会における原則的所有形態であり、近代市民社会を前提として成立した近代憲法が保障す る財産権には当然に「単独所有を求める権利」は内在するなどというような構成)は、とりづらいです。

その点、木村先生のように、憲法29条2項が明文で規定していた「財産権」は、実は既得権ではなく、公共の福祉に適合する財産法の構築を請求する権利だったのだと捉えるのは一つの解決策であるように思われます。

もう一つの解決法は、石川先生の「法制度保障」論です。これは、憲法29条は個別の財産上の権利だけではなく、法制度として単独所有を保障してお り、それに反する内容の法律は憲法29条1項に反する、という構成です。これは、法制度としての単独所有は私有財産制とは異なるものですが、単独所有制や 私有財産制といった法制度を法制定者が構築するのを憲法典が追認するのだ、という発想なのだと思われます。こう考えることによって、法制度が否定されるこ とと29条の財産権侵害をつなげて考えることを可能にしたのです。これは、はっきりいって論証するのは難しすぎます。

 

もっとも、これら二つの説のように権利の内容にまで踏み込まなくとも、財産権は法律化されてはじめて形になる権利であるというのが原則であるが、森林法判決が単独所有について例外を示した、という認識があれば、学者以外はそれで足りるのかもしれません。つまり、森林法判決と似たような単独所有が問題となるような事案が出ない限り、基本的には既得権をベースラインに設定するのです。

この場合、既得権が本当に発生しているかというのが重要となるため、そこの論証に力を注ぐべき(例えば、契約を済ませた時点で既得権は発生しているか、手付金を支払った段階ならどうか、とか)ということになると思います。