再現実況見分調書

再現実況見分調書について

 

伝聞法則シリーズもいよいよ第8弾です。今回は、前回の実況見分調書の応用として、再現実況見分調書を取り扱います。それに際して、写真の証拠能力の取扱いが理解の前提となりますので、一度、写真の取扱いについて説明したあと、再現実況見分調書をみていくことにします。

 

①     再現実況見分調書とは

 

再現実況見分調書とは、捜査官が被害者や被疑者等に被害・犯行状況を動作等で再現させ、その様子を写真撮影するとともに、再現の際の説明内容を記載し、前記写真を添付するなどした報告書をいいます。「写真撮影報告書」などとして出てくる場合もあれば、通常の供述調書に再現写真を末尾に添付された場合などもあり、その形式は多数考えられます。

 

②     再現実況見分調書の機能

 

このような調書を捜査機関側が証拠請求する意図(立証事項)は、多数考えられます。

❶最も一般的な意図としては、再現供述を視覚化することです。文書より写真で見た方が分かりやすいですからね。この場合、要証事実は、「再現されたとおりの犯罪事実の存在」であると考えられます。❷また、通常の実況見分の一環として行われ、再現供述が現場指示としての機能を果たす場合もあるようです。これは例えば、現場で再現者に事件当時の関係者の位置関係を指示説明させ、その各地点を現場の固定点から計測するような場合です。これによって、現場の見通し状況や、目撃者が本当に目撃できたかどうかを明らかにしようというのです。このような場合、要証事実は、通常の現場指示としての実況見分調書と同様と考えられます。

 

③     写真の証拠能力

 

ここで、再現実況見分調書の証拠能力に入る前に、写真の証拠能力について総論的に見ていこうと思います。

 

(1)   証拠物としての写真

 

例えば、刑法175条(わいせつ物頒布等罪)の「図画」であるわいせつ写真のように、存在及び形状それ自体が証拠となる場合です。これは、当然非供述証拠なので、関連性さえ認められれば、証拠能力は肯定されます。

 

(2)   検証調書、実況見分調書に添付された写真

 

検証調書や実況見分調書に、対象物を撮影したものとして添付された写真は、検証結果の一部に過ぎませんので、一体として調書の証拠能力が判断されることとなります。通常は、321条3項により証拠能力が付与されます。

 

(3)   現場写真

 

例えば、犯行状況や事件当時の現場を撮影した写真のように、独立で証拠となる写真です。

この証拠能力については、争いがあります。

 

通説は、人の意識作用(知覚→記憶→表現)を経過してはおらず、誤りが入る余地は少ない上、故意の修正のような作為性の問題については、一般の関連性の問題として吟味すればよいとして、非供述証拠と捉えています。判例(最決昭和59・12・21)も、「犯行の状況等を撮影した現場写真は、非供述証拠に属し、当該写真自体又はその他の証拠により事件との関連性を認めうる限り証拠能力を具備する」としています。

 

しかし、この合成や修正が容易なデジカメの時代に誤りが入る余地は少ないと断じてよいのかは疑問であり、現場写真は事実の報告的性格を有する上、撮影者の価値判断による撮影場面の取捨選択、撮影条件の設定という主観的要素が介在しうるとして、供述証拠と考える見解も有力です。この見解からは、検証調書に類似するとして、321条3項の類推適用を肯定していくようです。

 

実務では、デジカメによる写真は信用性がないとして、デジカメとアナログカメラの両方で同じ写真を撮るようです。

 

(4)   供述写真

 

また、上記以外の類型として、石井先生は、被告人や被害者が捜査官の求めに応じて、犯行や被害状況を再現した様子を撮影した写真集が独立に証拠調べ請求されたような場合を「供述写真」と呼んでいます。これは、被告人や被害者による行動で示された供述と見ることが出来ますので、その写真集は、供述を写真という機械的方法で録取したもの、すなわち供述録取書と同様の性質を持つと分析できるようです。ですので、被告人の場合は、322条1項被害者の場合は、321条1項で証拠能力が判断されることとなります。ただし、機械的方法で録取していますので、供述者の署名押印は不要と考えられています。(石井先生の「刑事実務証拠法」p.171~p.172)

 

ちなみに、この「供述写真」は、写真集が独立に証拠調べ請求された場合をいいますが、これが実況見分調書に添付されたような場合こそまさに 今回のテーマである再現実況見分調書の一場面です。「供述写真」部分も含めた再現実況見分調書の証拠能力判断について、次に取り扱っていきます。

 

④     再現実況見分調書の証拠能力

 

この証拠能力を判断するに当たっては、まず当該調書がいかなる意図(機能)によって取調請求されているのか考える必要があります。これはすなわち、 「②再現実況見分調書の機能」で述べた、❶再現供述を視覚化する意図なのか、❷実況見分の一環として行われたもので、現場指示として機能するものなのかを 区別する必要があるということです。

 

(1)❷実況見分の一環として再現供述(写真)が機能する場合

 

この場合には、再現供述(写真)部分も実況見分の結果の一部として、実況見分調書と一体として321条3項により、証拠能力が付与されることとなります。写真部分は、「③写真の証拠能力」でいうところの(2)に該当することは多言を要しませんよね。

 

(2)❶再現供述を視覚化する意図の場合

 

この場合は、実務の多数説は、再現供述の視覚化は、立会人(再現者)の再現内容の真実性を立証するための供述証拠であり、被告人の場合は、322条1項被告人以外の場合は、321条1項2号又は3号によって証拠能力を判断されることになると考えています。写真部分は、「③写真の証拠能力」でいうところの(4)に該当することは明らかですよね。供述写真部分を含めた再現実況見分調書が一体として供述証拠に該当するということです。

 

判例(最決平成17・9・27)も、「このような内容の実況見分調書(注:再現実況見分調書)・・・の証拠能力については、刑訴法326条の同意が得られない場合には、同法321条3項所定の要件を満たす必要があることはもとより、再現供述者の録取部分及び写真については、再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の、被告人である場合には同法322条1項所定の要件を満たす必要があるというべきである。もっとも、写真については、撮影、現像等の記録の過程が機械的操作によってなされることから前記各要件のうち再現者の署名押印は不要と解される」としています。

 

(cf. 再現実況見分調書として問題となっている調書を分析する際には、「実況見分部分」「再現供述部分」「再現写真部分」というように分析したあと、❷ならば、「再現供述(写真)部分」が、現場指示として「実況見分部分」と一体となっていることを示し、全体として321条3項に より証拠能力を判断すればいいです。しかし、私見ですが、❶の場合は、その各々の部分について、証拠能力判断すべきです。これは、仮に「再現供述(写真) 部分」が証拠能力を有さなくても、「実況見分部分」が証拠能力を有することはありえ、この場合「実況見分部分」の限りにおいて、調書の証拠能力が肯定されることもありうるからです。)