非伝聞

非伝聞について

 

前回で「伝聞法則総論」は終わりましたが、今回は実質的には伝聞法則総論の続きです。前回の説明を踏まえまして、非伝聞という概念を説明したうえで、これを類型化し、整理しておこうと思います。

今回は、次回以降の「精神状態に関する供述」「謀議メモ」を理解する上では必須の内容と言えると思います。

 

①     非伝聞とは

 

非伝聞とは、広義の供述証拠(=人の供述を内容とする証拠)でありながら、非供述証拠(=狭義の供述証拠以外の証拠で、その存在又は形状それ自体が証拠資料となるもの)である場合をいいます。(広義の)供述証拠でありながら、伝聞法則が適用されないため、「非伝聞」と呼ばれるのです。

 

この概念は、他の類似概念と混同しないことが大切です。

(狭義の)供述証拠であり、伝聞法則が適用されるものの、例外的に証拠能力が肯定される場合「伝聞例外」といいます。「非伝聞」とは、(狭義の)供述証拠か否か、伝聞法則が適用されているか否かが異なっています。

また、(狭義の)供述証拠でありながら、伝聞法則が適用されない場合を特に「伝聞不適用」と 呼ぶ論者もいるようです。この類型には、❶すでに反対尋問権が十分に確保されている場合(ex.公判準備における証人尋問調書(321条2項))、❷反対尋問権を放棄した場合(326条)、❸反対尋問権の行使が無意味な場合(ex.被告人の不利益事実の承認(322条1項))などが挙げられるようです。

 

②     伝聞法則不適用の根拠

 

非伝聞において、(広義の)供述証拠について伝聞法則が何故適用されないのかについては、それは端的にいえば、(狭義の)供述証拠ではないため、「伝聞証拠」にはあたらないからですが、より実質的には、伝聞法則の根拠が非伝聞には妥当しないからです。

 

伝聞法則の根拠は、供述過程の正確性テストの必要性にありましたよね。

ですから、例えば凶器などの証拠物であれば、供述過程を経ることなく証拠資料となる存在及び形状が公判廷に顕出されますので、正確性テストは不要です。よって、伝聞法則は適用されません。

この理屈は、(広義の)供述証拠であっても、証拠物に限らずおよそ非供述証拠であれば妥当します。

すなわち、(広義の)供述証拠であっても、証拠資料が供述過程を経ないで公判廷に顕出されるのであれば伝聞法則を適用する必要はないのです。

どういう場合かというと、例えば、原供述を証拠とする場合であっても、供述内容たる原供述者の体験事実の真実性を立証するために用いるのではなく、 その供述の存在自体が、直接証拠や間接事実として証拠資料となるような場合です。

このような場合には、証拠資料が供述過程を経ずに公判廷に出てきており、事実認定を誤らせるおそれがないため、伝聞法則を適用する必要がないのです。前回も述べましたが、このような場合を「非伝聞」といい、このような(広義の)供述証拠の取り扱いを、「供述証拠の非供述的用法」と呼ぶのです。

 

③     非伝聞か否かの判断基準

 

非伝聞か否かの判断基準も端的にいえば、「伝聞証拠」か否かが判断基準であり、(狭義の)供述証拠か非供述証拠かが判断基準ですが、ではそれはどのように判断するのでしょうか。

これは、伝聞法則が適用されるべき証拠か否かの判断ですので、かなり重要な内容です。

 

「伝聞証拠」とは、公判期日外における供述を内容とする書面及び公判期日外における他の者の供述を内容とする供述であって、原供述の内容の真実性の立証のために用いられる場合をいいましたよね。ここから、ある証拠に伝聞法則が適用されるか否かは、何を要証事実とするかによって相対的に決せられるものといえます。(「刑事訴訟法の争点」p.183)

 

例えば、ホントによく用いられる例ですが、「Aが『BがCを殺した』といっていた」とXが公判廷で述べた場合、BがCを殺したかどうかという、Aの供述内容の真実性の証明に用いるのであれば、このXの公判供述は「伝聞証拠」に他なりません。

しかし、AのBに対する名誉毀損事件において、名誉毀損行為とし て、Aがそう述べたこと自体を証明するのであれば、実際にBがCを殺したかどうかというAの供述内容の真実性はどうでもよく、Aが本当にそのような言葉を述べたのかAから直接聞いたXに対して反対尋問すれば足りるため、「伝聞証拠」とはならないのです。

 

これが、伝聞法則が適用されるべき証拠か否か、裏からいえば非伝聞か否かの判断基準です。

 

(cf. もっとも、要証事実を「供述や書面の存在自体」と認定さえすれば、いかなる供述証拠も非伝聞となり、証拠として許容されうるというのでは、伝聞法則の潜脱となります。そこで、「供述証拠の非供述的利用」が許されるのは、供述の存在それ自体が、究極的な要証事実(=要件事実)や他の間接事実への推認力を持つといえる場合でなければならない、とされています。

これは証拠の自然的関連性の問題のようにも見えますが、「供述証拠」それ自体としては、客観的には、内容の真実性をも含めると自然的関連性は認められる場合もありますので、やはり伝聞法則の潜脱防止という問題のようです。)

 

④     非伝聞の類型

 

では、非伝聞とは具体的にいかなる場合をいうのか、類型別にみていきたいと思います。この類型分けは、大澤先生の「刑事訴訟法の争点」p.182以下に負うところも大きいです。

 

(1)   原供述の存在自体が要証事実・間接事実となる場合

 

(1-1)発言の存在自体が要件事実である場合

 

ex. 既に上で述べた、「Aが『BがCを殺した』といった」というXの公判廷証言を、Aによる名誉毀損を立証するために用いる場合

 

(1-2)原供述の内容自体に要件事実が含まれている場合

 

ex. 「被告人Aが『殺してやる』といった」というXの公判廷証言など、原供述の内容自体に殺人の故意が含まれているような場合など

 

(1-3)原供述の存在自体を間接事実として他の事実を推認する場合

 

ex. 被告人Aの「私は神である」との言葉から、Aの精神の異常を推認するような場合や、被告人AとBのとの間での親密な会話を、AとBが以前から知り合いであることの推認に用いるような場合など

 

(cf. 現在の精神状態に関する供述と、このような精神の異常を推認するような場合の供述は、明確に区別されています。前者は、「原供述(の存在自体)」から「供述内容と関わりのある事実」を推論する場合であるのに対し、後者は、「原供述の存在自体」から「供述内容と関わりのない事実」を推論する場合であるからです。

従って、前者は、内容の真実性が問題となるため、狭義の供述証拠の定義に一見該当するのに対し、後者は内容の真実性を問題としませんので、狭義の供述証拠の定義には該当しないのです。)

 

(2)   それ以外の場合

 

(2-1)言葉が行為の一部をなす場合

 

言葉が非供述的とまではいえないけれど、行為と一体の関係にあって、その一部とも評価できる場合である「行為の言語的部分」と呼ばれる場合と、とっさに口をついて出る自然的な発言の場合があります。

 

ex. Aが「長い間待たせて、すみませんでした」という言葉と共にお金を渡した場合、そのお金を渡した行為は、そのセリフによって、貸付でもなく、贈与でもなく、返済行為としての推認ができることとなる、というような場合

 

(2-2)弾劾証拠

 

次回以降に取り扱いますが、「弾劾証拠」について、通説である「自己矛盾供述」に限定する立場からは、弾劾証拠はすべて非伝聞ということとなります。

 

 

以上で、伝聞法則についての総論は終わります。